2016年12月07日

『万葉集』を訓(よ)む(その1114)

 今回は、825番歌を訓む。「梅花歌卅二首」の十一首目。作者は、「小監(せうけん)土氏百村(としのももむら)」。「小監(せうけん)」は、「大監(だいけん)」に次ぐ第三等官で、従六位上相当官。職務は「大監(だいけん)」に同じで、定員は二名であること前歌(824番歌)のところでも述べた。「土氏百村(としのももむら)」について、阿蘇『萬葉集全歌講義』は次のように述べている。

小監土氏百村 土氏百村は、土師宿袮百村。養老五年正月、憶良らと共に退朝の後東宮に侍することを命ぜられた。土師氏は、もと土器・埴輪の制作を氏の職掌とし、殯宮儀礼に関わり、倭文忌寸(やまとのあやのいみき)と共に楯臥舞(*たたふしのまい)を奏した。全注は、「百村は楽舞を以て東宮に侍講したものらしい」という。
 *楯臥舞は、甲を着け刀と楯とを持って舞うものであった。

 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  烏梅能波奈 佐岐多流曽能々 阿遠夜疑遠 
  加豆良尓志都々 阿素毗久良佐奈        [小監土氏百村]

 まず、使われている万葉仮名を見ておこう。片仮名・平仮名の字源となった常用音仮名では、カ音の「加」・ク音の「久」・ソ(乙類)音の「曽」・ナ音の「奈」・ラ音の「良」が使われている。片仮名の字源となった常用音仮名では、ア音の「阿」・タ音の「多」・ル音の「流」が、そして平仮名の字源となった常用音仮名では、ハ音の「波」・ヲ音の「遠」が使われている。その他の常用音仮名としては、キ(甲類)音の「岐」・ギ(乙類)の「疑」・サ音の「佐」・シ音の「志」・ツ音の「都」・ヅ音の「豆」・ニ音の「尓」・ノ(乙類)音の「能」・ビ(甲類)音の「毗」・ヤ音の「夜」が使われ、音仮名では、ウ音の「烏」・ソ音の「素」・メ(乙類)音の「梅」が使われている。
 1句「烏梅能波奈」は「うめのはな」と訓む。この句は、817番歌の1句他と同句。「烏梅」は「うめ(梅)」。「能」は、連体助詞「の」。「波奈」は「はな(花)」。
 2句「佐岐多流曽能々」は「さきたるそのの」と訓む。この句は、817番歌の2句「佐吉多流僧能々」と表記は一部異なるところがあるが、同句。「佐岐」は、カ行四段活用の自動詞「さく(咲く)」の連用形「さき」。「多流」は、完了の助動詞「たり」の連体形「たる」。「曽能」は、「その(園)」で、「草花・果樹・野菜などを栽培するための一区画の土地。」の意。「々」は上の「能」と同じ字であることを示し、連体助詞「の」。
 3句「阿遠夜疑遠」は「あをやぎを」と訓む。この句も817番歌の3句の「阿遠也疑波」の係助詞「は」を格助詞「を」に変えたもので、ほぼ同句と言って良い。「阿遠夜疑」は、「あをやぎ(青柳)」。「遠」は格助詞「を」。
 4句「加豆良尓志都々」は「かづらにしつつ」と訓む。この句もまた、817番歌の4句の「可豆良尓須倍久(かづらにすべく)」を承けたもの。「可豆良」は、「かづら(鬘)」で、「上代、青柳、アヤメ、ユリ、藻草、稲穂などの種々の植物を、髪の飾りとしたもの。」をいう。「尓」は動作の目標・目的を示す格助詞「に」。「志都々」は、サ行変格活用の他動詞「す」の連用形「し」++接続助詞「つつ」=「しつつ」。
 5句「阿素毗久良佐奈」は「あそびくらさな」と訓む。「阿素毗」は、バ行四段活用の自動詞「あそぶ(遊ぶ)」の連用形「あそび」。「久良佐奈」は、サ行四段活用の他動詞「くらす(暮らす)」の未然形「くらさ」+意志・勧誘の終助詞「な」=「くらさな」。この句について、阿蘇『萬葉集全歌講義』は次のように注している。

遊び暮らさな 「遊び」は、ここは、宴で飲み歌を詠み奏楽を楽しむなどの意。未然形につく終助詞「な」は、自己や自己を含む群の動作・状態についていう場合、意志や勧誘の意をあらわす。ここは、勧誘。

 825番歌の平仮名文及び漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  うめのはな さきたるそのの あをやぎを 
  かづらにしつつ あそびくらさな

  梅の花 咲きたる園の 青柳を
  蘰にしつつ 遊び暮らさな

  梅の花の 咲いているこの園の 青柳を
  かずらにしながら さあ遊びましょうよ
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 17:41| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする