2017年01月04日

『万葉集』を訓(よ)む(その1119)

 遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
昨年末は、何かと多忙な日々におわれて、ご無沙汰をいたしました。本年も牛歩の歩みではありますが、できる限り続けて参りますのでよろしくお願い申し上げます。 河童老


 今回は、830番歌を訓む。「梅花歌卅二首」の十六首目。作者は「筑前介(ちくぜんのすけ)佐氏子首(さしこおびと)」。介は国府の次官。上国の介は従六位上相当官。佐氏子首は、天平三年四月の筑前国司牒(東大寺文書五)に、「正三(六か)位上行介勲五等佐伯直子首」と見える人かと思われる。

 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  萬世尓 得之波岐布得母 
  烏梅能波奈 多由流己等奈久
  佐吉和多留倍子        [筑前介佐氏子首]

 1句「萬世尓」は「萬世(よろづよ)に」と訓む。「萬」は「万」の旧字。「万世」は「万代」とも書き、「限りなく長く続く代」の意で、御代が永久に続くことを祝っていう語。「尓」はニ音の常用音仮名で、格助詞「に」。
 2句「得之波岐布得母」は「としはきふとも」と訓む。「得」はト(乙類)音の音仮名、「之」はシ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、「得之」で以って「とし(年)」を表す。「波」はハ音の常用音仮名(平仮名の字源)で、係助詞「は」。「岐」はキ(甲類)音の常用音仮名、「布」はフ音の常用音仮名で、「岐布」は、ハ行下二段活用の自動詞「きふ(来経)」を表す。「きふ」は、「年や月が経過する」ことをいう。「得母」は、仮定条件を示す接続助詞「とも」。「母」はモ音の常用音仮名。
 3句「烏梅能波奈」は「うめのはな」と訓む。この句は、前歌(829番歌)1句などと同句。「烏」「梅」は、ウ音・メ(乙類)音の音仮名で、「烏梅」で以って「うめ(梅)」。「能」はノ(乙類)音の常用音仮名で、連体助詞「の」。「波奈」は「はな(花)」。「波」は2句に既出、「奈」はナ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)。「梅の花」は、「梅の木に咲く花」。
 4句「多由流己等奈久」は「たゆることなく」と訓む。「多」はタ音の常用音仮名(片仮名の字源)、「由」はユ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)、「流」はル音の常用音仮名(片仮名の字源)で、「多由流」は、ヤ行下二段活用の自動詞「たゆ(絶ゆ)」の連体形「たゆる」。「たゆ」は「さらに続くべきものの先がなくなる。尽きる。途中で消える。滅びる。」ことをいう。「己」はコ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)、「等」はト(乙類)音の常用音仮名で、「己等」で以って、他の語句を受けて、これを名詞化し、その語句の表わす行為や事態や具体的内容などを体言化する形式名詞の「こと」を表す。「奈」は3句に既出、「久」はク音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、「奈久」は、ク活用形容詞「なし」の連用形(副詞法)の「なく」。
 5句「佐吉和多留倍子」は「さきわたるべし」と訓む。「佐」はサ音の常用音仮名、「吉」はキ(甲類)音の音仮名、「和」はワ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)、「多」は4句に既出、「留」はル音の常用音仮名(平仮名の字源)で、「佐吉和多留」は、ラ行四段活用の自動詞「さきわたる(咲き渡る)」を表す。「さきわたる」は「長時間または広範囲に咲く。咲きつづける。一面に咲く。」の意。「倍」はベ(乙類)音の常用音仮名、「子」はシ音の常用音仮名で、「倍子」で以って、当然・必然・推量の助動詞「べし」を表す。
 830番歌の平仮名文及び漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  よろづよに としはきふとも
  うめのはな たゆることなく 
  さきわたるべし

  万代に 年は来経とも
  梅の花 絶ゆることなく
  咲き渡るべし

  千年万年と 年が経とうとも
  梅の花は、絶えることもなく
  きっと咲きつづけるであろう
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 19:53| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする