2017年01月14日

『万葉集』を訓(よ)む(その1123)

 今回は、834番歌を訓む。「梅花歌卅二首」の二十首目。作者は「少令史(せうりやうし)田氏肥人(でんしのこまひと)」。作者について、井村『萬葉集全注』は「少令史は大令史の下席。大初位下相当。田氏は、田口、田中、田辺、田部(たなべ)等の氏があるが、肥人は伝不明。」と注している。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利
  毛々等利能 己恵能古保志枳
  波流岐多流良斯
               [少令史田氏肥人]
 
 本歌で使われている万葉仮名は次の通り。片仮名・平仮名の字源となった常用音仮名では、カ音の「加」・コ(乙類)音の「己」・ナ音の「奈」・ホ音の「保」・モ音の「毛」・ラ音の「良」・リ音の「利」が使われている。片仮名の字源となった常用音仮名では、イ音の「伊」・タ音の「多」・ル音の「流」が、そして平仮名の字源となった常用音仮名では、ハ音の「波」が使われている。その他の常用音仮名としては、キ(甲類)音の「岐」・コ(甲類)音の「古」・サ音の「佐」・シ音の「斯」と「志」・ト(乙類)音の「等」・ノ(乙類)音の「能」・マ音の「麻」・ヱ音の「恵」が使われ、音仮名では、ウ音の「烏」・キ(甲類)音の「枳」・メ(乙類)音の「梅」が使われている。

 1句「烏梅能波奈」は「うめのはな」と訓む。この句は、820番歌や832番歌の1句などと同句。「烏梅」は「うめ(梅)」。「能」は、連体助詞「の」。「波奈」は「はな(花)」。
 2句「伊麻佐加利奈利」は「いまさかりなり」と訓む。 この句は、820番歌の2句「伊麻佐可利奈理」と表記は一部異なるが同句。「伊麻」は「いま(今)」で、「過去と未来との境になる時。現在。」をいう。「佐加利奈利」は、ナリ活用の形容動詞「さかり(盛り)なり」で、「勢いの盛んなこと。また、その時期やさま。ある状態がその頂点に達する時期。」であることをいう。
 3句「毛々等利能」は「ももとりの」と訓む。「毛々等利」は「ももとり(百鳥)」で、「たくさんの鳥。いろいろの種類の鳥。」の意。「能」は1句と同じく、連体助詞「の」。
 4句「己恵能古保志枳」は「こゑのこほしき」と訓む。「己恵」は「こゑ(声)」。「能」は、格助詞「の」。「古保志枳」は、シク活用形容詞「こほし」の連体形「こほしき」。「こほし」は「こひし(恋)」の古い形で、ここは「心惹かれる」ことをいう。
 5句「波流岐多流良斯」は「はるきたるらし」と訓む。「波流」は「はる(春)」。「岐多流」は、ラ行四段活用の自動詞「きたる(来る)」(終止形)。「良斯」は、推量の助動詞「らし」。
 834番歌の平仮名文及び漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  うめのはな いまさかりなり
  ももとりの こゑのこほしき
  はるきたるらし

  梅の花 今盛りなり
  百鳥の 声の恋しき
  春来るらし
 
  梅の花は 今が盛りだ
  多くの鳥の 声の心惹かれる
  春がまさしくやってきたらしい
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 10:02| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする