2018年06月14日

『万葉集』を訓(よ)む(その1279)

 今回は、943番歌を訓む。題詞に「反歌三首」とあって、本歌から945番歌までの三首は、942番歌(以下、「長歌」という)の反歌である。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  玉藻苅 辛荷乃嶋尓
  嶋廻為流 水烏二四毛有哉
  家不念有六

 1句「玉藻苅」は「玉藻(たまも)苅(か)る」と訓む。この句は、直近では936番歌1句と同句。「玉藻(たまも)」は「美しい藻」の意で、「たま」は美称。「苅」はラ行四段活用の他動詞「かる」の連体形で「苅(か)る」。「かる」は「むらがって生えているものを短く切り払う」ことをいう。「玉藻(たまも)苅(か)る」は「カルを辛荷のカラにかけた枕詞。」(『萬葉集全注』)とするものもあるが、実際の景色を¥描写したものと考えて良い。
 2句「辛荷乃嶋尓」は「辛荷(からに)の嶋(しま)に」と訓む。「辛荷乃嶋」は、「長歌」12句に既出で「辛荷(からに)の嶋(しま)」と訓む。「乃」はノ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、連体助詞「の」。「尓」はニ音の常用音仮名で、場所を示す格助詞「に」。
 3句「嶋廻為流」は「嶋廻(しまみ)為(す)る」と訓む。「嶋廻(しまみ)」(42番歌に既出)は、「島のまわり。島の周辺。また、島をめぐること。島めぐり。」の意。「廻(み)」は、めぐる意の上一段動詞「廻(み)る」の連用形が名詞化した語で、接尾語的に用いられる。「為流」(771番歌他に既出)は、サ行変格活用の他動詞「す」の連体形「為(す)る」で、活用語尾「る」をル音の常用音仮名で片仮名の字源である「流」で表記したもの。
 4句「水烏二四毛有哉」は「水烏(う)にしも有(あ)れや」と訓む。「水烏」は、「みづのからす」で「う(鵜)」のこと。『仙覺抄』に「水烏トカケルハ、ウ也」とある。「二」「四」は、数字としても用いられるが、ここではニ音(片仮名の字源)・シ音の音仮名として、「二」は格助詞「に」に、「四」は副助詞「し」に用いられたもの。「毛」はモ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、係助詞「も」。「有哉」は、ラ行変格活用の自動詞「あり」の已然形「有(あ)れ」+反語を示す係助詞「や」(疑問・反語に用いられる漢文の助字「哉」で表記)=「有(あ)れや」。係助詞「や」が活用語の已然形に付く「あれや」は上代特有の語法で、後には「あればや」と接続助詞の「ば」を入れるようになる。
 5句「家不念有六」は「家(いへ)念(おも)はざらむ」と訓む。「家(いへ)」は938番歌などと同じで、「自分の住まい。わが家。故郷の家。」の意。「不念」は、ハ行四段活用の他動詞「おもふ」の未然形「念(おも)は」+打消しの助動詞「ず」(連用形。「不」で表記)=「念(おも)はず」。「有六」は、ラ行変格活用の自動詞「あり」の未然形「有(あ)ら」+推量の助動詞「む」(常用訓仮名「六」で表記)=「有(あ)らむ」。「不念有六」は、「念(おも)はず有(あ)らむ」の「ず」と「有(あ)」が約まって「ざ」となり、「念(おも)はざらむ」と訓まれた。推量の助動詞「む」を数字でもある「六」で表記したのは、4句の「二」「四」とともに数字遊びの表記といえよう。
 4句・5句「水烏(う)にしも有(あ)れや・家(いへ)念(おも)はざらむ」は、「鵜ででもあるというので家を思わないのであろうか。(鵜ではない自分は家を思わずにはいられない)」という意。
 943番歌の漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  玉藻(たまも)苅(か)る 辛荷(からに)の嶋(しま)に
  嶋廻(しまみ)為(す)る 水烏(う)にしも有(あ)れや
  家(いへ)念(おも)はざらむ

  玉藻を刈る 辛荷の島で
  島めぐりをしている 鵜ででもあるというので
  家を思わないのであろうか
  (鵜ではない自分は家を思わずにはいられない)
posted by 河童老 at 16:51| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする