2017年05月23日

『万葉集』を訓(よ)む(その1166)

 今回は873番歌を訓む。「松浦佐用姫の歌」五首のうちの三首目である。題詞に「最後人追和」とあって、前々歌(871番歌)に「更に後の人が追和した」歌である。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  余呂豆余尓 可多利都夏等之 
  許能多氣仁 比例布利家良之
  麻通羅佐用嬪面 

 本歌で使われている万葉仮名は次の通り。
 片仮名・平仮名の字源となった常用音仮名では、シ音の「之」・ヒ(甲類)音の「比」・ラ音の「良」・リ音の「利」・ロ(乙類)音の「呂」が使われている。片仮名の字源となった常用音仮名ではタ音の「多」が、平仮名の字源となった常用音仮名ではニ音の「仁」が使われている。その他の常用音仮名としては、カ音の「可」・ケ(甲類)音の「家」・ケ(乙類)音の「氣」・コ(乙類)音の「許」・サ音の「佐」・ツ音の「都」・ヅ音の「豆」・ト(乙類)音の「等」・ニ音の「尓」・ノ(乙類)音の「能」・フ音の「布」・マ音の「麻」・ヨ(甲類)音の「用」・ヨ(乙類)音の「余」・ラ音の「羅」が使われ、準常用音仮名ではレ音の「例」が、音仮名では、ゲ(甲類)音の「夏」・ツ音の「通」・ヒ(甲類)音の「嬪」・メ(甲類)音の「面」が使われている。

 1句「余呂豆余尓」は「よろづよに」と訓む。この句は、830番歌1句の「萬世尓」と同句で、その仮名書き。「よろづよ」は、「万世」とも「万代」とも書き、「限りなく長く続く代」の意で、御代が永久に続くことを祝っていう語。「尓」は格助詞「に」。
 2句「可多利都夏等之」は「かたりつげとし」と訓む。「可多利都夏」は、ガ行四段活用の他動詞「かたりつぐ(語り継ぐ)」の命令形「かたりつげ」を表す。「かたりつぐ」は、「人から人へ、世代から世代へと次々に語り伝える。」ことをいう。「等」は格助詞「と」。この「と」は前歌(872番歌)2句に「いひつげと」とあった「と」と同じ。「之」は副助詞「し」。
 3句「許能多氣仁」は「このたけに」と訓む。「許能」は、近称の代名詞「こ」に連体助詞「の」の付いた「この」。話し手が、空間的、心情的に近い事物を指し示すのに用いる。「多氣」は、「たけ(岳・嶽)」で、「高く大きな山。高山。」の意。「このたけ」は、前歌4句に「このやま」と同じ。「仁」は場所を示す格助詞「に」。
 4句「比例布利家良之」は「ひれふりけらし」と訓む。「比例」は、前歌の「必例」・前々歌の「比列」に同じで、「ひれ(領布)」を表す。「布利」は、ラ行四段活用の他動詞「ふる(振る)」の連用形「ふり」。「家良之」は、過去の助動詞「けり」の連体形「ける」+推量の助動詞「らし」=「けるらし」の縮約形「けらし」を表す。
 5句「麻通羅佐用嬪面」は「まつらさよひめ」と訓む。「麻通羅佐用嬪面」は、前々歌2句の「麻通良佐用比米」に同じで、「まつらさよひめ(松浦佐用姫)」。前々歌の序にある通り、大伴佐提比古(大伴金村の三男)の愛人で、伝説上の人物。

 873番歌の平仮名文及び漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  よろづよに かたりつげとし 
  このたけに ひれふりけらし
  まつらさよひめ

  万世に 語り継げとし
  この岳に 領巾振りけらし
  松浦佐用姫

  万代の後までも 語り伝えよとて
  この山で 領巾を振ったものらしい
  松浦佐用姫は
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 12:56| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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