2018年07月17日

『万葉集』を訓(よ)む(その1288)

 今回は、948番歌の23句からを訓む。
 23句・24句「言巻毛・湯々敷有跡」は「言(い)はまくも・ゆゆしく有(あ)らむと」と訓む。23句は、475番歌の3句と同句。「言巻」は、21句の「かけまく」と同じク語法、ハ行四段活用の他動詞「いふ」の未然形「言(い)は」+意志・推量の助動詞「む」(連体形) +形式体言「あく」の「言(い)はむあく」が約まったもので、「言(い)はまく」と訓む。「巻」は、21句と同じで「まく」を表わすための借訓字。「毛」は、モ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、係助詞の「も」。「湯々敷」は、シク活用の形容詞「ゆゆし」の連用形「ゆゆしく」を表す。「湯」は「ゆ」の常用訓仮名で、「敷」は「しく」を表すための借訓字。「ゆゆし」は「忌み憚り慎まれる」ことをいう。ここの「有」は、ラ行変格活用の自動詞「あり」の未然形「有(あ)ら」に推量の助動詞「む」を補読して「有(あ)らむ」と訓む。「跡」は「と(乙類)」の常用訓仮名で、格助詞「と」。
 25句・26句「豫・兼而知者」は「豫(あらかじめ)・兼(か)ねて知(し)りせば」と訓む。25句は、468番歌3句・556番歌3句・659番歌1句と同句で、「豫」の一字で「あらかじめ」と訓む。「あらかじめ」は「前々から。前もって。かねて。」の意。26句は、151番歌の2句「懐知勢婆」と表記は異なるが同句で、「兼(か)ねて知(し)りせば」と訓む。「かねて」は、動詞「かねる(兼)」の連用形「兼(か)ね」に接続助詞「て」(漢文の助字「而」で表記)が付いたものが一語化して副詞となったもので、「事前に。前もって。」の意。「知者」は、ラ行四段活用の自動詞「しる」の連用形「知(し)り」+回想の助動詞「き」の未然形「せ」(無表記だが補読)+仮定条件を示す接続助詞「ば」(「は」の訓仮名「者」を流用)=「知(し)りせば」。「しる」には、自動詞と他動詞があるが、ここは「物事のなりゆきがわかる」という意の自動詞と考えられる。「せば」は、現実に反する事態を仮定条件として表わす語で、多く推量の助動詞「まし」と呼応して用いられる。ここも32句・34句の「まし」と呼応している。
 27句・28句「千鳥鳴・其佐保川丹」は「千鳥(ちどり)鳴(な)く・其(そ)の佐保川(さほかは)に」と訓む。27句は、526・528・715・915番歌の1句と同句。「千鳥(ちどり)」は、多数で群をなして飛ぶところから呼ばれたもので、チドリ科の鳥の総称。「鳴」はカ行四段活用の自動詞「なく」の連体形で「鳴(な)く」。「千鳥(ちどり)鳴(な)く」の句は、『万葉集』に本歌を含めて五例あり、915番歌のみ「吉野川」を修飾しているが、他は全て「佐保川」にかかっており、「佐保川」の慣用的修飾語と言える。「其(そ)の」は、中称の代名詞「そ」に連体助詞「の」が付いたもので、前に述べたことや聞き手が了解していることをさし示す。「佐保川(さほかは)」は、奈良市、春日山の東側に発し、若草山北方を西流、さらに南流し、諸川や泊瀬川と合流して大和川となる川。「丹」は「に」の常用訓仮名で、場所を示す格助詞「に」。
 29句・30句「石二生・菅根取而」は「石(いは)に生(お)ふる・菅(すが)の根(ね)取(と)りて」と訓む。ここの「石」は、743番歌2句の「千引乃石」を「千引(ちびき)の石(いは)」と訓んだのと同様、「いし」ではなく「いは」と訓む。「二」はニ音の音仮名(片仮名の字源)で、場所を示す格助詞「に」。「生」はハ行上二段活用の自動詞「おふ」の連体形で「生(お)ふる」。「おふ」は「(草木・毛などが)はえる。生じる。」ことをいう。「菅根」(791番歌に既出)は、「菅」と「根」の間に連体助詞「の」を補読して「菅(すが)の根(ね)」と訓む。「菅」は、カヤツリグサ科の植物の総称。カサスゲの葉で笠、カンスゲで蓑をつくるなど利用用途の多い植物。単独ではスゲだが、複合語を作ると母音交替でスガとなる。「根」は、「高等植物の基本的な器官の一つ。普通は地中にあって、植物体の支持および、水と栄養分の吸収を主な機能とする。」と『日本国語大辞典』にある。「取」はラ行四段活用の他動詞「とる」の連用形「取(と)り」。「而」は漢文の助字で、接続助詞「て」。
 31句・32句「之努布草・解除而益乎」は「しのふくさ・解除(はら)へてましを」と訓む。「之」はシ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)、「努」はノ(甲類)音の常用音仮名、「布」はフ音の常用音仮名で、「之努布」で以ってハ行四段活用の他動詞「しのふ」(連体形)を表す。「しのふ」は「思い慕う」の意であるが、何らかの物を媒介として思い遣ることをいう。「草」は「くさ」を表すための借訓字で、「くさ」は「物事を生ずるもと。種。」の意。「しのふくさ」は、「偲種」の意で、「思い慕う原因となるもの。心ひかれる思いのたね。」をいう。「解除」は、ハ行下二段活用の他動詞「はらふ」の連用形で「解除(はら)へ」。「而」は30句に同じで、接続助詞「て」。「解除(はら)へて」について、吉井『萬葉集全注』は「祓へて」として「罪や穢(けが)れを、祓具(はらえつもの)を出して解除することで、他から課せられる行為である。」と注している。「益」は借訓字で、反実仮想の助動詞「まし(連体形)」に宛てたもの。「乎」はヲ音の常用音仮名(片仮名の字源)で、詠嘆の間投助詞「を」。
 33句・34句「徃水丹・潔而益乎」は「徃(ゆ)く水(みづ)に・潔(みそ)ぎてましを」と訓む。「徃」はカ行四段活用の自動詞「ゆく」の連体形「徃(ゆ)く」。「徃(ゆ)く水(みづ)」は「佐保川の流れ」をさす。「丹」は28句に既出で、格助詞「に」。34句は、420番歌の42句「潔身而麻之乎」と表記は異なるが同句。「潔」はガ行四段活用の自動詞「みそぐ」の連用形で「潔(みそ)ぎ」。「みそぐ」は「川原などで、水で身を洗い清め穢れを落とす。斎戒沐浴する。」ことをいう。「而」は30句・32句に同じで、接続助詞「て」。「益乎」は、32句に同じく、反実仮想の助動詞「まし」+詠嘆の間投助詞「を」=「ましを」。
 35句以降は、次回に続く。
posted by 河童老 at 12:20| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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