2018年10月23日

『万葉集』を訓(よ)む(その1314)

 今回は、971番歌の19句からを訓む。
 19句・20句「國方乎・見之賜而」は「國方(くにかた)を・見(め)し賜(たま)ひて」と訓む。「國方(くにかた)」は、「国形」「国状」とも書き、「国の形状、状況」の意。「乎」はヲ音の常用音仮名(片仮名の字源)で格助詞「を」。「見之」は、サ行四段活用の他動詞「めす」の連用形で「見(め)し」。「めす」は、「見る」に上代の尊敬の助動詞「す」が付いて音の変化したもので、「見る」の尊敬語。連用形を明示するために、活用語尾の「し」をシ音の常用音仮名で、片仮名・平仮名の字源である「之」で表記したもの。「賜」はハ行四段活用の他動詞「たまふ」の連用形で「賜(たま)ひ」。「たまふ」には「賜」「給」の字が宛てられるが、上位から下位へ物や恩恵を与える動作を表わすのが原義と思われる。そこから、恩恵を受ける下位者の立場を主として、「上位者が恩恵を与えてくれる、下さる」という、動作主を敬う気持が生じ、尊敬語が成立する。一方、恩恵を与える立場の者を主として、「恩恵を与えてやる、くれてやる」の意に用いられる場合も生じる。ここは尊敬表現に用いている。「而」は、漢文の助字で、接続助詞「て」。
 21句・22句「冬木成・春去行者」は「冬(ふゆ)こもり・春(はる)去(さ)り行(ゆ)かば」と訓む。21句は、有名な額田王の「春秋優劣判定歌」(16番歌)の冒頭句に同じ。「冬こもり」は「春」にかかる枕詞。そのかかり方については諸説があるが、冬の間活動をやめていた植物が芽を出して茂る春の意で、「春」にかかるとする説が有力である。ただし、この場合は「冬籠り」とは別語となる。他に、冬に活動をやめて籠っていたものが春になると外に出る意からとする説、「冬が終わり」の意から「春」に続くとする説などもある。平安時代にはすでに「冬籠り」の意識で用いられていたと考えられる。「こもり」の表記の「木」は「こ(乙類)」の訓仮名であり、「成」は「盛」の省文で、「もり」の借訓字。「去」(948番歌他に既出)は、ラ行四段活用の自動詞「さる」の連用形で「去(さ)り」。「さる」は、移動する意であるが、季節や時を表わす語のあとに付けて「その時、季節になる。」の意となる。ここも「春(はる)去(さ)る」で「春になる」意。「行者」(967番歌他に既出)は、カ行四段活用の自動詞「ゆく」の未然形「行(ゆ)か」+順接の仮定条件を表す接続助詞「ば」(「は」の訓仮名「者」を流用)で、「行(ゆ)かば」。ここの「ゆく」は、動作・状態の継続、進行を表す補助動詞。
 23句・24句「飛鳥乃・早御来」は「飛(と)ぶ鳥(とり)の・早(はや)く来(き)まさね」と訓む。「飛鳥」は、既出例の多くが「飛(と)ぶ鳥(とり)の」で地名「明日香(あすか)」にかかる枕詞として使われているが、ここは、「飛ぶ鳥のように早く」という意で、次の「早く」にかかる枕詞として使われている。「乃」はノ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、格助詞「の」。「早」(548番歌他に既出)は、ク活用形容詞「早し」の連用形からできた副詞「早(はや)く」。「御来」は、カ行変格活用の自動詞「く」の連用形「来(き)」+サ行四段活用の自動詞「ます」の未然形「まさ」(尊敬の意を付け加える補助動詞としての用法で「御」により表記。)+希望・誂えの終助詞「ね」=「来(き)まさね」。なお、吉井『萬葉集全注』は、この「早御来」を「早(はや)帰りませ」と訓んでいる。意味の上からは「帰ってきて」の意ではあるが、「来(き)まさね」と訓んでもその意に変わりなく、末句「公(きみ)が来(き)まさば」と訓むのであれば、ここもほとんどの諸注の訓に従って「来(き)まさね」と訓むのが良いと思われる。
 25句・26句「龍田道之・岳邊乃路尓」は「龍田道(たつたぢ)の・岳邊(をかへ)の路(みち)に」と訓む。「龍田」は、この歌の1句にも「龍田山」として既出の地名で、大和国(奈良県)北西部を流れる龍田川下流の大和川との合流点に近い地域をいう。古来河内国(大阪府)と大和国を結ぶ交通の要地であり、現在の奈良県生駒郡斑鳩(いかるが)町・三郷(さんごう)町の一帯にあたる。「龍田道(たつたぢ)」は「龍田へ向かう道」をいう。「之」は漢文の助字で、同格を示す格助詞「の」。「岳邊」は「岳辺」(「邊」は「辺」の旧字)で、「岳のほとり。岳のあたり。」の意。「乃」は23句に既出で、ここは連体助詞「の」。「岳邊(をかへ)の路(みち)」は「龍田道(たつたぢ)」を言い換えたもの。「尓」はニ音の常用音仮名で、場所を示す格助詞「に」。
 27句以降は、次回に続く。
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 15:44| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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