2018年11月08日

『万葉集』を訓(よ)む(その1319)

 今回は、974番歌を訓む。題詞に「反歌一首」とあって、本歌は前の長歌(973番歌)の反歌である。左注には、「右御歌者或云太上天皇御製也」とあり、この長歌・反歌(973・974番歌)は、聖武天皇の御歌ではなく、太上天皇すなわち聖武天皇の伯母にあたる元正天皇の御歌であるとも言われていると記している。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  大夫之 去跡云道曽 
  凡可尓 念而行勿 
  大夫之伴

 1句「大夫之」は「大夫(ますらを)の」と訓む。この句は、935番歌13句他と同句。「大夫(ますらを)」は、「益荒男」とも書き、「立派な男子。強く勇ましい男子。」を意味するが、宮廷人であることを誇る意識を背景に使われることが多かったことから、官位の呼称である「大夫」が用いられるようになったもの。「之」は漢文の助字で、格助詞「の」。
 2句「去跡云道曽」は「去(ゆ)くと云(い)ふ道(みち)そ」と訓む。「去」はカ行四段活用の自動詞「ゆく」の終止形で「去(ゆ)く」。「跡」は「と(乙類) 」の常用訓仮名で、格助詞の「と」。「云」はハ行四段活用の他動詞「いふ」の連体形で「云(い)ふ」。上の格助詞「と」に続けて「と云(い)ふ」の形で、「…と口に出す。人がそう呼ぶ。世間で…と言われる。」の意。ここの「道(みち)」は、「去(ゆ)くと云(い)ふ道(みち)」ということで、「節度使に任命された人たちがこれから行く道」をいう。「曽」はソ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、係助詞「そ」。
 3句「凡可尓」は「凡(おほ)ろかに」と訓む。「凡」は、965番歌1句「凡有者」を「凡(おほ)ならば」と訓んだ例があり、ここは「凡(おほ)ろ」と訓む。「可」「尓」は、カ音・ニ音の常用音仮名。「凡(おほ)ろかに」は、形容動詞「おほろかなり」の連用形(副詞法)。「おほろかなり」は「いい加減であるさま。通り一遍であるさま。」をいい、「凡(おほ)ろかに」は「いい加減に」の意。
 4句「念而行勿」は「念(おも)ひて行(ゆ)くな」と訓む。「念而」(761番歌他に既出)は、ハ行四段活用の他動詞「おもふ」の連用形「念(おも)ひ」+接続助詞「て」(漢文の助字「而」で表記)=「念(おも)ひて」。「行」はカ行四段活用の自動詞「ゆく」の終止形「行(ゆ)く」。「ゆく」は「目的の場所に向かって進む」ことをいう。「勿」(233番歌他に既出)は、漢文の助字で禁止の意があり、ここは禁止の終助詞「な」に用いたもの。
 5句「大夫之伴」は「大夫(ますらを)の伴(とも)」と訓む。「大夫之」は1句に同じ。「伴(とも)」は「同じ仲間の人々」の意で、「大夫(ますらを)の伴(とも)」は、「節度使に任命された人々」への呼びかけ。
 974番歌の漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  大夫(ますらを)の 去(ゆ)くと云(い)ふ道(みち)そ
  凡(おほ)ろかに 念(おも)ひて行(ゆ)くな
  大夫(ますらを)の伴(とも)

  立派な男子が 行くという道であるぞ
  いい加減に 思って行くな 
  立派な男子であるあなたたちよ
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 21:28| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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