2018年12月12日

『万葉集』を訓(よ)む(その1326)

 今回は、981番歌を訓む。題詞に「大伴坂上郎女月歌三首」とあり、本歌〜983番歌までの三首は、「大伴坂上郎女」が「月」を詠んだ歌である。
写本に異同はなく、原文は次の通り。

  獦高乃 高圓山乎 
  高弥鴨 出来月乃 
  遅将光

 1句「獦高乃」は「獦高(かりたか)の」と訓む。「獦高(かりたか)」は地名と思われる。「乃」はノ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、連体助詞「の」。『日本古典文学大系』の頭注に「獦高のー高円あたりの地名かという。狩をする高原の意で高円山の山地とする説(北島葭江氏)もある。延暦四年(七八五)に右京の人で鴈高宿袮の姓を賜った者があるが、何か関係があるか。」とあり、阿蘇『萬葉集全歌講義』には「獦高 高円山西麓の鹿野園付近。」とある。
 2句「高圓山乎」は「高圓山(たかまとやま)を」と訓む。「高圓山(たかまとやま)」(230番歌に既出)は、奈良市白毫寺町にある、春日山の南に峠道を隔てて続く、標高462メートルの山。「乎」はヲ音の常用音仮名(片仮名の字源)で、格助詞「を」。
 3句「高弥鴨」は「高(たか)みかも」と訓む。この句は、前歌(980番歌)の3句「高御香裳」と「みかも」の表記は異なるが同句。「高弥」は、ク活用の形容詞「たかし」の語幹「高(たか)」+原因・理由を表す接続助詞「み」(ミ(甲類)音の常用音仮名「弥」で表記)=「高(たか)み」。「鴨」は疑問の係助詞「か」+詠嘆の係助詞「も」=「かも」を表すための借訓字。「かも」は、文中用法と文末用法があり、文中用法では係助詞的にはたらき、文末用法では終助詞的にはたらく。文末用法の「かも」は上代によく使われたが、平安以後はおおむね「かな」となることは、前歌のところでも述べた。
 4句「出来月乃」は「出(い)で来(く)る月(つき)の」と訓む。「出来」は、ダ行下二段活用の自動詞「いづ」の連用形「出(い)で」+カ行変格活用の自動詞「く」の連体形「来(く)る」=「出(い)で来(く)る」。「月(つき)」は「天体の月」。「乃」は1句に既出で、ここは格助詞「の」。
 5句「遅将光」は「遅(おそ)く光(て)[照]るらむ」と訓む。「遅」はク活用形容詞「おそし」の連用形(副詞法)で「遅(おそ)く」。「おそし」は「時がたっている。」意であるが、夜が更けていることを言う場合が多い。ここもその例。「将光」は、ラ行四段活用の自動詞「てる」の終止形「光(て)[照]る」+現在の推量を表す助動詞「らむ」(漢文の助字「将」で表記)=光(て)[照]るらむ」。「てる」は「日や月などが光輝を発する。ひかる。」ことをいう。「光」は、『名義抄』に「光 ヒカリ・ミテリ・テル・オホキナリ・ミツ・サカエ・ウルハシ・ヒカル・ツヤヤカナリ・ホシマムナ」と多くの訓があるが、ここはテル。
 981番歌の漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

  獦高(かりたか)の 高圓山(たかまとやま)を
  高(たか)みかも 出(い)で来(く)る月(つき)の
  遅(おそ)く光(て)[照]るらむ 

  獦高の 高円山が
  高いからか やっと出て来た月が
  夜遅く照っているのでしょう
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 18:36| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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