2017年11月14日

『万葉集』を訓(よ)む(その1216)

 今回は、898番歌を訓む。前回で訓み終えた897番歌(以下、「長歌」という。)の「反歌」六首の一首目である。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

 奈具佐牟留 心波奈之尓 
 雲隠 鳴徃鳥乃
 祢能尾志奈可由

 1句「奈具佐牟留」は「なぐさむる」と訓む。この句は、889番歌の3句「奈具佐牟流」と「る」の表記が異なるが同句。「奈」「具」「佐」「牟」「留」は、各々、ナ音・グ音・サ音・ム音・ル音の常用音仮名で、「奈」は片仮名・平仮名の字源、「牟」は片仮名の字源、「留」は平仮名の字源。「奈具佐牟留」で以って、マ行下二段活用の他動詞「なぐさむ(慰む)」の連体形「なぐさむる」を表す。「なぐさむ」は「心をなごやかに静まらせる。心を晴らす。気をまぎらせる。」ことをいう。
 2句「心波奈之尓」は「心(こころ)はなしに」と訓む。「心(こころ)」(「長歌」の36句に既出)は、「人間の理知的、情意的な精神機能をつかさどる器官、また、その働き。」をいう。「波」はハ音の常用音仮名(平仮名の字源)で、係助詞「は」。「奈之尓」は、ク活用形容詞「なし」+接続助詞「に」=「なしに」で、「無くて。無いのに。」の意。「奈」(1句に既出)「之」「尓」は、ナ音・シ音・ニ音の常用音仮名で、「奈」「之」は、共に片仮名・平仮名の字源。
 3句「雲隠」は「雲隠(くもがく)り」と訓む。「雲隠」(461番歌他に既出)は、ラ行四段活用の自動詞「くもがくる」の連用形で「雲隠(くもがく)り」。「くもがくる」は、「鳥や月などが、雲に隠れる」ことをいう。
 4句「鳴徃鳥乃」は「鳴(な)き徃(ゆ)く鳥(とり)の」と訓む。「鳴」はカ行四段活用の自動詞「なく」の連用形で「鳴(な)き」。「徃」は「往」の俗字で、カ行四段活用の自動詞「ゆく」の連体形「徃(ゆ)く」。「鳥」は象形文字で、鳥の全形を象る。字音はチョウで、字訓は「とり」。「乃」はノ(乙類)音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、格助詞「の」。
 3句・4句の「雲隠(くもがく)り鳴(な)き徃(ゆ)く鳥(とり)の」は、5句「ねのみしなかゆ」の比喩の序詞。
 5句「祢能尾志奈可由」は「ねのみしなかゆ」と訓む。この句は、「長歌」の39句と同句で、645番歌5句「哭耳四所泣」を一字一音の仮名書きにしたもの。「祢」はネ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)で、「泣くこと」を意味する名詞「ね(哭)」を表す。「能」はノ(乙類)音の常用音仮名、「尾」はミ(乙類)音の音仮名で、「能尾」は、限定を示す副助詞「のみ」を表す。「志」はシ音の常用音仮名で、副助詞「し」。「奈」(1句・2句に既出)は、ナ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)、「可」はカ音の常用音仮名、「由」はユ音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)。「奈可由」は、カ行四段活用の自動詞「なく(泣く)」の未然形「なか」+自発の助動詞「ゆ」=「なかゆ」。「ねのみしなかゆ」は、3句・4句の比喩の序詞を承けて、「鳥が鳴く」ように「声をあげて泣くばかり」であると詠ったものである。
898番歌の漢字仮名交じり文と口訳を示すと、次の通り。

 なぐさ(慰)むる 心(こころ)はなしに
 雲隠(くもがく)り 鳴(な)き徃(ゆ)く鳥(とり)の
 ね(音)のみしな(泣)かゆ

 気を晴らす 心のはたらきもないままに
 雲に隠れて 鳴き行く鳥のように
 声をあげて泣くばかりです
ラベル:万葉集
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2017年11月09日

『万葉集』を訓(よ)む(その1215)

 今回は、前回の続きで897番歌の31句からを訓む。
 まず、今回使われている万葉仮名について見ておこう。 
 片仮名・平仮名の字源となった常用音仮名では、ウ音の「宇」・ク音の「久」・ナ音の「奈」・ネ音の「祢」・ヒ(甲類)音の「比」・ユ音の「由」・ラ音の「良」・レ音の「礼」・ワ音の「和」が使われている。片仮名の字源となった常用音仮名ではア音の「阿」が、平仮名の字源となった常用音仮名ではハ音の「波」が使われている。その他の常用音仮名としては、カ音の「可」サ音の「佐」・シ音の「志」・ツ音の「都」・ヅ音の「豆」・テ音の「弖」・ニ音の「尓」・ノ(乙類)音の「能」・バ音の「婆」・モ音の「母」・エ音の「延」が使われ、準常用音仮名ではヲ音の「遠」が、音仮名では、ス音の「周」・ヌ音の「農」・ミ(乙類)音の「尾」が使われている。
 
 31句・32句「五月蝿奈周・佐和久兒等遠」は、「五月蝿(さばへ)なす・さわく兒等(こども)を」と訓む。31句は、478番歌の35句「五月蝿成」と「なす」の表記は異なるが同句。「五月蝿」は、『日本書紀』の神代下第九段の終わりの方に「五月蝿、此云左魔陪。」とあることから、「さばへ」と訓む。「五月蝿(さばへ)」は「陰暦五月頃にむらがりさわぐ蠅。夏の蠅。小さな蠅。」をいう。「奈周」は、接尾語「なす」を表し、「…のように、…のような、…のごとく、…のごとき」の意。「佐和久」は、カ行四段活用の自動詞「さわく」(連体形)を表す。「さわく」は「騒ぐ」に同じで、上代では第三音は清音であった。「兒等」は、280番歌1句と同じく「兒等(こども)」と訓む。「ども」は、名詞・代名詞に付いて、そのものを含めて、同類の物事が数多くあることを示すが、必ずしも多数とは限らないで、同類のものの一、二をさしてもいう。人を表わす場合は「たち」に比べて敬意が低く、目下、または軽蔑すべき者たちの意を含めて用いる。「遠」は格助詞「を」。 
 33句・34句「宇都弖々波・死波不知」は、「うつてては・死(しに)は知(し)らず」と訓む。「宇都弖」は、「うちうて(打ち棄て)」の約で、「うつて(打棄て)」を表す。「うち」は接頭語。「棄(う)て」は、「捨つ」の古形である「棄(う)つ」(タ行下二段活用の他動詞)の連用形。「々波」は、接続助詞「て」に係助詞「は」が付いた「ては」を表す。「死」は、598番歌の2句と同様、ナ行変格活用の自動詞「しぬ(死)」の連用形の名詞化「死(しに)」と訓み、「死ぬ事」の意。「波」は係助詞「は」。「不知」(720番歌他に既出)は、ラ行四段活用の他動詞「しる」の未然形「知(し)ら」+打消しの助動詞「ず」(連用形。「不」で表記)で「知(し)らず」。「死(しに)は知(し)らず」は「死ぬ事もできない」の意。
 35句・36句「見乍阿礼婆・心波母延農」は、「見(み)つつあれば・心(こころ)はもえぬ」と訓む。「見(み)」はマ行上一段活用の他動詞「見る」の連用形。「乍」は、活用語の連用形に付いて動作の並行を表わす接続助詞「つつ」を表わすための借訓仮名。「心(こころ)」(718番歌他に既出)は、「人間の理知的、情意的な精神機能をつかさどる器官、また、その働き。」をいう。「波」は33句・34句と同じく、係助詞「は」。「阿礼婆」は、ラ行変格活用の自動詞「あり」の已然形+順接の確定条件を表す接続助詞「ば」=「あれば」。「母延農」は、ヤ行下二段活用の自動詞「もゆ(燃ゆ)」の連用形「もえ」+完了の助動詞「ぬ」=「もえ(燃え)ぬ」。「もゆ」は「ある感情に動かされて、気持が高ぶる。悲しみや怒り、また、感動などで胸が熱くなる。」ことをいう。
 37句・38句「可尓可久尓・思和豆良比」は、「かにかくに・思(おも)ひわづらひ」と訓む。37句は、800番歌29句「可尓迦久尓」と同じく、「かにかくに」を表す。副詞「か」「かく」のそれぞれに助詞「に」を付けて重ねた連語で、あり得る事態を観念的、包含的にとらえて、それを指示する。「あれこれと。いろいろと。」の意。「思」は、ハ行四段活用の他動詞「おもふ」の連用形で「思(おも)ひ」。「和豆良比」は、ハ行四段活用の自動詞「わづらふ(煩ふ)」の連用形「わづらひ(煩ひ)」を表す。「わづらふ」は「そのことに心がとらわれて思い苦しむ。悩む。心配する。」ことをいう。
 39句「祢能尾志奈可由」は、「ねのみしなかゆ」と訓む。この句は、645番歌5句「哭耳四所泣」を一字一音の仮名書きにしたもので同句。「祢」は名詞「ね(哭)」を表し、「泣くこと」の意。「い」が「ぬ(ねる)」の名詞で、「寐(い)も宿(ぬ)る」(46番歌)のように用いられたのと同様に、「哭(ね)を泣く」などのように使われた。「能尾」は、限定を示す副助詞「のみ」を表す。「志」は副助詞「し」。「奈可由」は、カ行四段活用の自動詞「なく(泣く)」の未然形「なか」+自発の助動詞「ゆ」=「なかゆ」。
 897番歌の漢字仮名交じり文を示すと、次の通り。なお、注の部分は省く。

 たまきはる 内(うち)の限(かぎ)りは
 平(たひら)けく 安(やす)くもあらむを
 事(こと)も無(な)く も(喪)無(な)くもあらむを
 世間(よのなか)の う(憂)けくつら(辛)けく
 いとのきて 痛(いた)き瘡(きず)には
 鹹塩(からしほ)を 潅(そそ)くちふがごとく 
 益々(ますます)も 重(おも)き馬荷(うまに)に 
 表荷(うはに)打(う)つと いふことのごと
 老(お)いにてある 我(わ)が身(み)の上(うへ)に
 病(やまひ)をと 加(くは)へてあれば
 晝(ひる)はも 歎(なげ)かひくらし 
 夜(よる)はも 息(いき)づきあかし
 年(とし)長(なが)く やみ(病み)し渡(わた)れば
 月(つき)累(かさ)ね 憂(うれ)へ吟(さまよ)ひ
 ことことは しな(死な)なと思(おも)へど
 五月蝿(さばへ)なす さわく(騒く)兒等(こども)を
 うつて(打棄て)ては 死(しに)は知(し)らず
 見(み)つつあれば 心(こころ)はもえ(燃え)ぬ
 かにかくに 思(おも)ひわづらひ(煩ひ)
 ね(哭)のみしなか(泣か)ゆ

 次に、897番歌の口語訳を示すと、次の通り。

 (たまきはる) この世に生きている間は
 何事もなく 平穏でありたいのに
 差し障りなく 不幸なこともなくありたいのに
 この世の中の 憂鬱で辛いことには
 格別に 痛い傷口には
 辛い塩を ふりかけるというように
 はなはだしくも 重い馬の荷の上に
 更に上荷を 載せるというように
 年老いている わが身の上に
 病気まで 加えているので
 昼は昼中 嘆き続け
 夜は夜通し ため息をついて夜を明かし
 年久しく 病気であり続けてきたので
 幾月も 悲しんで嘆きうめいたりして
 同じ事なら 死にたいと思うけれども
 真夏の蠅のように 騒ぎ回る子供たちを 
 うち捨てて 死ぬ事もできず
 じっと子供たちを見つめていると 熱い思いが湧いてくる
 あれこれと 思い悩んで
 ただもう声をあげて泣くばかりです
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 18:41| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月07日

『万葉集』を訓(よ)む(その1214)

 今回は、前回の続きで897番歌の13句からを訓む。
  13句・14句「益々母・重馬荷尓」は、「益々(ますます)も・重(おも)き馬荷(うまに)に」と訓む。「益々(ますます)」は、動詞「ます(増)」の終止形を重ねた語(副詞)で、「量や程度がふえたり、はなはだしくなったりするさまを表わす語。増加していっそう。いよいよ。」の意。「母」はモ音の常用音仮名で、係助詞「も」。「重」はク活用形容詞「おもし」の連体形で「重(おも)き」。「おもし」は「目方が多い。重量がある。」ことをいう。「馬荷(うまに)」は、「馬に背負わせた荷物。馬につけた荷。」をいう。「尓」はニ音の常用音仮名で、格助詞「に」。
 15句・16句「表荷打等・伊布許等能其等」は、「表荷(うはに)打(う)つと・いふことのごと」と訓む。「表荷(うはに)」は、「馬などの積み荷のうち、上に積み重ねたもの。」をいう。「打」はタ行四段活用の他動詞で「打つ」。「表荷(うはに)打(う)つ」は、「上積みの荷物を重ね載せる。」ことをいう。「等」はト(乙類)音の常用音仮名で、格助詞「と」。「伊」「布」は、イ音・フ音の常用音仮名で、「伊」は片仮名の字源。「伊布」で以って、ハ行四段活用の他動詞「いふ」(連体形)を表す。「許」はコ(乙類)音の常用音仮名で、「許等」は、形式名詞の「こと」を表す。「能」はノ(乙類)で、連体助詞「の」。「其」はゴ(乙類)音の常用音仮名で、「其等」は、助動詞「ごとし」の語幹の「ごと」を表す。「ごと」は、「同じ」の意を表わす「こと」の濁音化したもので、体言的性格をもつ。「ごとく。ように。同じく。」の意。
 17句・18句「老尓弖阿留・我身上尓」は、「老(お)いにてある・我(わ)が身(み)の上(うへ)に」と訓む。「老」はヤ行上二段活用の自動詞「おゆ」の連用形で「老(お)い」。「尓」は完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」。「弖」はテ音の常用音仮名で、接続助詞「て」。「阿」「留」は、ア音・ル音の常用音仮名で、「阿」は片仮名の、「留」は平仮名の字源。。「阿留」は、ラ行変格活用の自動詞「あり」の連体形「ある」を表す。「我身上」は、自称の「我(わ)」の下に連体助詞「が」を、また「身(み)」の下にも連体助詞「の」を補読して、「我(わ)が身(み)の上(うへ)」と訓み、「自分の一身にかかわること。我が身のこと。また、自分の境遇。」の意。次の「尓」は一四句と同じで、格助詞「に」を表す。
 19句・20句「病遠等・加弖阿礼婆」は、「病(やまひ)をと・加(くは)へてあれば」と訓む。「病(やまひ)」は「病むこと。病気。」。「遠」はヲ音の準常用音仮名で、格助詞「を」。「等」は15句と同じで、格助詞「と」。この「と」は、「語調を整えるために引用を表す助詞『と』を加えたもの。」と阿蘇『萬葉集全歌講義』にある。「加」はハ行下二段活用の他動詞「くはふ」の連用形で「加(くは)へ」。「弖」は17句と同じで接続助詞「て」。「阿礼婆」は、ラ行変格活用の自動詞「あり」の已然形「あれ」+既定条件を示す接続助詞「ば」=「あれば」を表す。「礼」「婆」は、レ音・バ音の常用音仮名で、「礼」は片仮名・平仮名の字源。
 21句・22句「晝波母・歎加比久良志」は、「晝(ひる)はも・歎(なげ)かひくらし」と訓む。21句「晝波母」は、155番歌9句「晝者母」、204番歌11句「晝波毛」及び372番歌13句「晝者毛」と「はも」の表記がそれぞれ異なるが、同句である。「晝」(昼の旧字)は「ひる」で「太陽が空にあるあいだ。日の出から日没までの間。」を言う。「波」はハ音の常用音仮名(平仮名の字源)で、係助詞「は」を、「母」は13句と同じで係助詞「も」を表す。係助詞「は」と「も」が複合した連語「はも」は、「特に取り立てて提示しようとするものに、強い執着や深い感慨を持ち続けている場合に使う」(『岩波古語辞典』)。「歎加比」は、カ行四段活用の自動詞「なげく」の未然形「歎(なげ)か」+反復・継続の助動詞「ふ」の連用形「ひ」=「歎(なげ)かひ」。「加」「比」は、カ音・ヒ音の常用音仮名で、共に片仮名・平仮名の字源。「久良志」は、サ行四段活用の他動詞「くらす」の連用形「くらし」を表す。「くらす」は、他の動詞の連用形に接続して、その行為を一日中し続ける意を表す。「久」「良」「志」は、各々、ク音・ラ音・シ音の常用音仮名。「久」「良」は、共に片仮名・平仮名の字源。
 23句・24句「夜波母・息豆伎阿可志」は、「夜(よる)はも・息(いき)づきあかし」と訓む。23句「夜波母」は、155番歌7句「夜者毛」、204番歌13句「夜羽毛」及び372番歌15句「夜者毛」と「はも」の表記は異なるが、同句。「夜(よる)」は「日没から日の出までの時間。太陽が没して暗い間。」をいう。「波母」は21句に同じ。24句は、210番歌40句「氣衝明之」及び213番歌40句「息衝明之」と表記は異なるが同句。「息豆伎」は、カ行四段活用の自動詞「いきづく」の連用形で「息(いき)づき」。「いきづく」は「ためいきをつく。嘆息する。」の意。「豆」「伎」は、ヅ音・キ(甲類)音の常用音仮名。「阿可志」は、サ行四段活用の他動詞「あかす」の連用形「あかし」を表す。「あかす」は「夜が明けるのを待ち過ごす。眠らないで夜を過ごす。」ことをいう。「可」はカ音の常用音仮名。
 25句・26句「年長久・夜美志渡礼婆」は、「年(とし)長(なが)く・やみし渡(わた)れば」と訓む。「年(とし)」は時の単位で、「十二ヶ月、一年間を単位とする歳月。」をいう。「長久」はク活用形容詞「長し」の連用形「長(なが)く」。連用形の活用語尾「く」をク音の常用音仮名(片仮名・平仮名の字源)の「久」で表記している。「夜」「美」は、ヤ音・ミ(甲類)音の常用音仮名で、「美」は平仮名の字源。「夜美」は、マ行四段活用の自動詞「やむ(病む)」の連用形「やみ」を表す。次の「志」は副助詞の「し」。「渡礼婆」は、ラ行四段活用の自動詞「わたる」の已然形「渡(わた)れ」+既定条件を示す接続助詞「ば」=「渡(わた)れ」。ここの「わたる」は、補助動詞として用いたもので、動詞の連用形について、その動作・状態が、「ある期間ずっと…し続ける(または、続く)」ことをいう。
 27句・28句「月累・憂吟比」は、「月(つき)累(かさ)ね・憂(うれ)へ吟(さまよ)ひ」と訓む。「月(つき)」は時間の単位で、「天体の月が地球を一周する時間」をいう。「累」は、ナ行下二段活用の他動詞「かさぬ」の連用形で「累(かさ)ね」と訓む。「かさぬ」は、「ある事の上に、さらに他の事を添え加える。また、同じ物事を繰り返す。」ことをいうが、歳月の繰り返しにもいう。28句は、憶良の「貧窮問答歌」(892番歌)63句「憂吟」と同句。「憂吟比」は、ハ行四段活用の自動詞「うれへさまよふ」の連用形「憂(うれ)へ吟(さまよ)ひ」を表す。連用形であることを明示するために、活用語尾「ひ」をヒ音の常用音仮名で片仮名・平仮名の字源である「比」で表記したもの。「うれへさまよふ」は、「悲しんで嘆息をつき、うなる。嘆きうめく。」ことをいう。 
 29句・30句「許等々々波・斯奈々等思騰」は、「ことことは・しななと思(おも)へど」と訓む。「許」「等」は、コ(乙類)音・ト(乙類)音の常用音仮名で、「許等々々」は「こと(同じ)こと(事)」を表す。「波」は、21句・23句と同じで、係助詞「は」。「ことことは」は、「同じことならば」の意。「斯」「奈」は、シ音・ナ音の常用音仮名で、「奈」は片仮名・平仮名の字源。「斯奈々」は、ナ行変格活用の自動詞「しぬ(死ぬ)」の未然形「しな」+願望を表す終助詞「な」=「しなな」を表す。「死にたい。」の意。次の「等」は15句・19句と同じで、格助詞「と」。「思騰」は、ハ行四段活用の他動詞「おもふ」の已然形「思(おも)へ」+逆接の既定条件を示す接続助詞「ど」=「思(おも)へど」。「騰」はド(乙類)音の準常用音仮名。
 31句以降は、次回に続く。
ラベル:万葉集
posted by 河童老 at 16:02| Comment(0) | 小説/文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする